今回は日本一やさしい量子コンピュータ入門ということで、今ブームの量子コンピュータとはなんぞや、どんな技術で成り立ってるのか、また将来どのようなことに役立つのなかについて一つ一つ説明していきます。
●動画でも説明していますので動画派の方はこちらを観てください
今回は対エンジニア向けではなく中高生でもわかるような用語を使って、かつ数式を使わずに量子コンピュータについて説明していきたいと思います。
なのでこれを見終わったら量子コンピュータについて基礎や概要はだいぶ理解できると思いますので、ぜひ最後まで読んで頂ければと思います。
ではさっそく本題に入っていきます。
目次
プロローグ
量子コンピュータは、現在、次世代の超高速コンピュータとして注目されていて、ニュースでも取り上げられる機会が増えてきました。
ただニュースだと「計算が速い」「Googleが開発した」など表面的にしか報じておらず、量子コンピュータがどういった仕組み、現状どういったことに役に立つかという部分の具体的な本質がわかりません。
なので今回は、量子コンピュータの本質として、どういった仕組みなのか、どうして計算が速いのか、どのように世の中に役立つのかについて説明していきます。
量子コンピュータとは
現在世の中にあるコンピュータには、私たちが持っているスマホ、パソコン、タブレットなどがあります。
その他にも企業や研究機関が開発したスーパーコンピュータという高性能計算ができるコンピュータもあります。
これらは見た目は異なりますが中身の仕組みはほぼ同じです。
スーパーコンピュータのイメージとしては、パソコンをいくつも繋げて並列計算できるようにし、高速化したコンピュータと言えばわかりやすいです。
これらは量子コンピュータと比較するために古典コンピュータと呼ばれています。なので私たちが持っているのはすべて古典コンピュータなんです
では今ブームの量子コンピュータと古典コンピュータがどう違うかなのか説明します。
一言で言うと、古典コンピュータが行っている記憶や処理の仕組みをベースに「量子」というものをプラスさせてパワーアップさせた計算機が量子コンピュータです。
ようするに古典コンピュータのシステム+量子の性質を合体させたものです。
じゃ、量子とはなんぞやですが、量子とは簡単に言えば、物質の構成単位となる小さな粒のことです。その物質とは服や鉛筆などはもちろん光、電気など、この世にあるものすべてです。
それらの物を分割して分割して分割しつくして、これ以上小さくできない物質が量子です。
量子の中には原子、分子、電子、光子などなど、いろんな種類があります。
有名な量子の種類をまとめてみました。
●原子・・・世の中にあるすべてのモノの源。
原子には全部で118種類あり、世の中にあるすべての物質は原子から形つくられいます。なので原子とは、物質を分割していって、電子や電子核以外では最後にたどりつく最小の物質なんです。私たちが来ている服はもちろん、人間でさえも分解していけば、いずれは原子になります。
●電子、陽子、中性子・・・原子を構成してる源。原子よりさらに小さい。
●光子・・・光の源。
この光子や原子などの最小単位の粒子の振舞いや仕組みを研究のが量子力学です。
それに対して量子よりも大きいものの振舞いや仕組みを学ぶのが古典力学です。古典力学はたとえば、飛行機がなぜ飛んでるかとか、地球がなぜ回ってるかなど大きいものの動きを研究する学問です。高校の授業でやった物理学はここに含まれます。
まとめると量子コンピュータは、この量子の力をプラスして、量子の力うまく使うことにより、計算を高速化しようとしているコンピュータのことです。
この量子コンピュータがあれば、医療を進歩させたり、地球のエネルギー問題を解決できたり、高度なAIロボットを作れるのではないかと言われています。
なぜ注目されているか
現在、私たちは世の中のあらゆる場面でコンピュータの恩恵を多大に受けています。
たとえばスマホやPCを使ってる個人個人もそうですが、もっとも恩恵を受けてるのは新型車の開発、病気の治療薬の開発、AI開発などあらゆるテクノロジー開発の現場です。
なので、これら製品や開発の質をパワーアップしたければ、コンピュータの性能をあげるのが一番近道だということです。
そこで問題が出てきました。古典コンピュータを少しずつ性能アップしていけば、たしかに少しずつ質もアップしていきますが、世の中には高性能なスーパーコンピュータをもってしても解決できない問題が山ほどあるんです。
たとえば組み合わせ最適化問題や不治の病の特効薬開発、世の中の役に立つであろう新素材の開発などです。
そんな山積みの問題を計算能力が高い量子コンピュータなら一気に解決できるんではないかという期待があるので、今、世の中から注目されているんです。
なので現在、各国、各IT企業は莫大な資金を投入して、量子コンピュータの開発に勤しんでいるわけです。
量子コンピュータの歴史
研究のはじまりは1982年に物理学者のリチャード・ファインマンのアイデアがきっかけと言わています。
そのアイデアとは下記です。
「量子力学の原理に従っている自然現象をシミュレーションしたければ、同じく量子力学の原理に従っているコンピュータが必要」
このアイデアのあと多くの学者によって研究されるようになり、少しずつですが技術は進歩してきました。
その後、1994年に米国の科学者ピーター・ショアが量子コンピュータで素因数分解を高速で解く方法を見つけたことにより、第一次量子コンピュータブームが訪れます。
なぜ注目されたのか説明します。
まず、この素因数分解を応用した技術にRSA暗号があります。このRSA暗号は通販サイトやビットコイン、クレジットカードデータの暗号化などで使われている技術です。
この暗号が簡単に解けてしまうことから、量子コンピュータによるセキュリティ破壊が危惧され、注目されるようになりました。
その後、ブームは終息したかのように見えましたが、2010年代に入り、IBMやGoogleなど大手企業が参入したことにより現在まで第二次ブームが起きています。
なので量子コンピュータは、まだまだ歴史が浅く、これからより発展する技術なのです。
なぜ計算が速いのか
速さを説明する前に、量子コンピューターが具体的にどういった計算をしてるのかを、金庫の暗証番号の解読方法を例に説明します。
ここに5パターンの暗証番号を設定できる金庫があるとします。設定できる番号は1111〜5555までの数字です。
この中の一つの番号を金庫に設定したとします。
これを古典コンピュータが答を導き出す場合、1111から順に一つずつ試していくしか方法はありませんでした。いわゆる、しらみつぶし作戦です。
だけど量子コンピュータは『重ね合わせ』というものを使って、すべてのパターンを一度に試すことができます。これは何通りもの計算を重ね合わせて、一度ですべてを考えることができるという量子の性質を使って計算してるからです。
なぜこういったことができるのか。
古典コンピュータは数値、文字、画像、音声などのすべてのデータを電気信号で理解して表現します。
電気信号はコンピュータの中に入ってるトランジスタという部品で「OFF・ON」で表すことができ、古典コンピュータはOFFなら「0」とONなら「1」としか理解できません。
なので古典コンピュータが扱っている数値、文字、画像、音声すべての情報はこの「0」と「1」の組み合わせで表現しています。
この「0」と「1」の一つひとつをビットと言います。
例えば、数字の「2」なら「10」の2ビットで表せるし、アルファベットの「A」なら「0100 0001」の8ビットで表すことができます。
この処理の部分では大きな差があります。
古典コンピュータは1回に「0」か「1」の1つしか処理できませんが、なんと量子コンピュータはこの「0」と「1」を重ね合わせたイレギュラーな形「0+1」として処理できるんです。
「0」と「1」を一つの単位としてみてるんです。
このような重ね合わせによる量子コンピュータの情報単位のことを「量子ビット」と呼びます。
量子コンピュータはこの重ね合わせの技術を使って、並列計算することができるので計算回数を格段に減らすことにより、スーパーコンピュータよりも圧倒的な速さで計算できるという仕組みです。
この不思議な力は、日常生活の法則とはかけ離れた動きをし、かつ量子レベルの最小単位でしか存在しない力です。なので量子の固まりであるボールや机などのある一定の大きさになるとなくなってしまいます。
こういった話を聞くと、んじゃ原理はもうわかってるので量子コンピュータによって、もうほとんどの人類の問題は解決できるのでは?と思ってしまいますが、実はそううまくいきません。
実は現段階では量子コンピュータが解ける問題、高速化できる計算はほんの一部だけなんです。
また扱える量子ビットの数も少なく、エラーも多いので私たちの生活に今すぐ役立つような実用化レベルの量子コンピュータはまだ存在しません。
なので現状では古典コンピュータも必要なんです。
ちなみに現在、高速化できる計算はだいたい60種類ほどで、こちらのサイトにまとめられています。
また、この高速化について気になる方は、こちらの本を読んでみください。すごくわかりやすく説明されています。
将来どういった場面で役立つか
量子コンピュータが将来、実用化されても、今の私たちのスマホやPCの代わりなる可能性は低いです。
なぜかというと量子コンピュータが得意な計算は限られているので、おそらく得意な計算が活かせる特別な用途だけに使われるコンピュータになるでしょう。例えて言うなら、わざわざ買い物に行くのにF1カーを使わないのと同じです。
今後期待されるのは膨大な計算が必要となる問題の解決です。
例としてこちらになります。
●新素材の開発
たとえば夏場でも涼しく過ごせる服、まるで装着感のないコンタクトレンズなど。
●新薬の開発
たとえば副作用のない薬、不治の病を治す薬など。
●組み合わせ最適化問題
たとえば人員配置や製造方法の最適化、投資でより利益をだす投資先の最適化など。
●高度な人工知能の開発
人工知能には初めに大量のデータを読み込ませる必要があります。このデータを効率よく集めたり、読み込ませたりなどに使えます。
ちなみに、この新素材と新薬に関しては、現在、世界中の科学者がどのような原子をどのように組み合わせたら役に立つ薬ができるかを日々、研究されています。
もし高性能な量子コンピュータが完成したら、この膨大な原子の組み合わせを時間のかかる研究をせずとも高速に導き出せるんではないかと期待されているんです。
どのようなリスクがあるか
素因数分解を高速で解くことができるようになったことにより、暗号化されたものが簡単に解けてしまうのではないかと言われています。
例えば、ビットコインやネット通販で使われているRSA暗号があげられます。
RSA暗号は素因数分解を応用して作られており、大きな桁の素因数分解の解読は難しいという前提で使われています。
しかし安心してください。技術的に今の量子コンピュータでは解くことがまだできません。
今だけではなく、これから10〜20年は安全と言われていますし、米国の国立標準技術研究所(NIST)は、2048ビットのRSA暗号は2030年まで安全と発表しています。
また将来を見据えて量子コンピューターによる素因数分解攻撃でも解けない『耐量子コンピューター暗号』の標準化プロジェクトもすでに始まっています。
量子コンピュータの今
現在は、今まで話した通り量子コンピュータ開発のブームです。世界中の企業や研究機関がしのぎを削って日夜、開発に勤しんでいます。
そのかいあって、たとえば今ではD-Wave社が量子コンピュータ本体を販売をしています。
もし買うのが敷居が高ければクラウド経由で量子コンピュータを無料で誰でも使うことができます。
なのでみなさんは今すぐにでも量子コンピュータをタダで試すことができるんです。
また2019年10月にはGoogleが最先端のスーパコンピュータでも1万年かかると言われている問題を、自社製の量子コンピュータを使い、200秒で解いたと発表しました。
だけどGoogleの量子コンピュータをもってしても、なにか私たちの生活に役に立つような実用可できるようなものではなく 、「量子の性質を使えばスーパーコンピュータより計算が高速になる」ということを世界で初めて科学的に実証したにすぎないのです。
これはこれですごいことですが、現状の量子コンピュータは現代のコンピュータよりも速く解ける問題がいくつかある程度で、まだまだ発展途上の状態です。
現代の量子コンピュータの性能と、将来開発されるであろう実用化レベルの量子コンピュータの差は、 紙飛行機と高性能な戦闘機くらいがあります。
高性能な戦闘機レベルになるにはまだまだ技術的に解決すべき問題も山積みです。なので現状は計算間違いも良くするし、計算できる問題の数も限られており、まだまだ実用化レベルではありません。
今後、私たちの役に立つレベルの量子コンピュータが完成するのは何十年も先と言われています。
しかし通常のコンピュータと量子コンピュータを連携させて得意なこと不得意なことをお互い補うようなシステムが最近、発案されるなど、もしかしたらもっと早く私たちの生活に役立つ量子コンピュータが誕生するかもしれませんね。
量子コンピュータまとめ
最後に今回の量子コンピュータ入門をまとめて終わりたいと思います。
・量子コンピュータとは量子の重ね合わせという性質で計算が速くなるコンピュータのこと
・これにより医療を進歩させたり、組み合わせ問題を解決できたりと今、世界中が注目している
・だけど技術的問題が多く、まだまだ役に立つレベルではない
・でも量子コンピュータはまだまだ歴史が浅く、これからより発展する技術です
あとこの本の書評なんですが、実際の研究・開発者が、量子コンピュータの仕組みを数式を使わず、すごいわかりやすく説明しているのでかなりオススメです。
個人的には著者の研究内容を紹介している章がとてもおもしろかったですね。
たとえば部品がなければ自分たちで金属を削って作ったり、長い時間かけて作った試作品がまったく機能しなかったり、と涙ぐましい努力をしてるんだなと思いました。
なんでそんなことができるかと言えば、量子コンピュータが世界を変える確信を持ってるからであり、その大きな夢とロマンが今、世界中の研究者を動かしてるんだなとこの本を読んで思いました。
では以上になります。
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