【埋込み型AI】テクノロジー系ショートショート朗読・秋葉原編

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「どうだい? 頭は痛むかい?」
「今のところ大丈夫だよ」
秋葉原の雑居ビルにある小汚い診察室で闇医者・笠原と野崎という無職の男が話していた。

「ここ見て。ここに埋め込んだよ」
笠原はPCモニターに映るレントゲン写真を指差した。

「まだ実感わかないと思うけど、この起動スイッチを押せば、君の脳の中にある埋込み型AIが起動して、君は世界一賢い人間になるだろう」
「まったく実感ないよ。でもこうなることを望んで俺はこの埋込み型AIを盗んできたんだ」
野崎は大きくツバを飲んだ。

「そうだ、あんたはやってのけたんだよ。さぁ、世界一賢い人間と世界一の窃盗犯になった記念だ。乾杯しよう」
笠原はほくそ笑み、部屋の冷蔵庫からシャンパンを取り出した。

ちょうど二週間前だった。笠原の元に野崎が訪れたのは。
「あんたが笠原さんか。秋葉原のブラックジャックと聞いてるぜ。ちょいと頼みがあるんだが」
野崎は勢いよく事務所のドアを開け、笠原を見つけるなり言った。

「その前に金は持ってきたかい?」
「話を聞いてからにしてくれ。あんた世界一の頭脳を作り上げたくないかい?」
「どういう意味だ?」
「今朝のニュースで、AI研究の日本一の権威である日本AI研究所が、世界一高精度の埋込み型AIを発明したと発表があったんだ」
「そのニュースなら見たさ」
「なら話が早い。おれはそこで警備員の仕事をしてたんだ。だから研究所のセキュリティに関してはすべて知ってるんだ」
笠原は頷き、黙って続きを聞いた。

「頼みというのは俺が”ソレ”を盗んでくるから手術してほしい」
笠原は天を仰ぎ、少し考えた。

「なるほど、それはおもしろいな。現代において埋込み型AIは何億円もする一部の金持ちだけの特権だ。ましてや本当に世界一だとすれば、君は間違いなくスーパーマンになれるだろう。それならAIを活かして稼いだあとの後払いで大丈夫だ。ただし本当に盗んでこれたらな」

こういうやり取りがあったあと、野崎は本当に研究所から埋込み型AIを盗んできて、手術が行われたわけだ。

「それじゃテストしよう。駅近くの将棋サロンで2〜3ゲーム対局してきてくれ。もし本物ならだれよりも強いはずだ」
そう言うと笠原は起動スイッチを押した。

「どんな感じだ? 頭の容量が広がった感覚はあるか?」
「これといってなにも感じない。どうしてだろう…」
「おかしいな。とりあえず予定通りテストだ」

雑居ビルを出た野崎は駅近くの将棋サロンのドアを開いた。
「だれか強い奴と対局できるか?」
それを聞くとスタッフは店内を見回し、奥にいる男を指差した。
「あのおじさん、日本中のアマチュア大会を総なめしてる緒方さんって人だよ。でもやめときな。あまりの強さに自信なくすぜ。その辺のプロより強いよ」

野崎は黙って緒方の方へ歩を進めた。
「すいません、対局いいですか?」
本を読んでいた緒方は顔をあげ、野崎を見つめた。

「わかりました、やりましょう。でもお兄さんすごい自信ありげな顔してますね」
「もちろんやるからには勝ちますよ」
「ではお手柔らかに」
緒方はほくそ笑み、駒を並べだした。

勝負を開始してから15分が経った頃。

「...負けました」
野崎は駒をバンっと将棋盤に叩きつけ言葉を絞り出した。

「どう見ても初心者レベルでしたが、スタッフに私のことは聞いていますよね? あなたのレベルだとおそらくこの店内にいる誰にも勝つことはできませんよ」

野崎は下を向き、奥歯を噛んだ。
「全然、話が違うじゃないか!」
そう叫ぶと一目散に店外に飛び出し、笠原の事務所に戻ったが留守だったため、その辺の喫茶店で帰りを待つことにした。

目の前にオーダーしたブレンドコーヒーとミルクレープケーキが並べられた。
野崎はなぜ勝てなかったのかをずっと考えていたが、どうしても手術が失敗したんだと脳裏をよぎった。

《これからどうすべきか。とりあえず笠原に会ったら文句を言おう》
そんなことを考えながら、ケーキを一口、口に含んだ瞬間だった。

「なんだこれは…」
それは頭の中の容量が一気に拡張されたような感覚だった。まるで6畳1間の部屋が東京ドーム規模になったかのような。そしてまだまだ容量が広がっていくような感覚に包まれた。

それと同時に過去の出来事がどんどん思い出していく。昔、解けなかった数式もふと頭に浮かび、なぜこんな簡単な問題が解けなかったんだろうと思ったほどだ。

それよりも気分が爽快でハイになり、食欲もわいてきた。麻薬の類はやったことないが、もしやったらこんな感覚に陥るんだろうなと思った。

《今なら勝てる気がする》
野崎は一目散に将棋サロンに戻った。

「あなたともう一度やりたい」
「往生際悪いですね」
緒方は退屈そうな顔をさせた。

それから30分も経った頃。
「負けました…。あんたさっきは実力を隠してたのかい?」
「これが本当の実力さ」
うなだれる緒方を見て、野崎は気分の高揚が抑えられなかった。

その後も何人かと対局したが全勝した。途中、頭の回転が遅くなったり、容量不足を感じたときは、なぜかおにぎりを食べたら復活した。
どうやら、この埋込みAIは満腹になったときのみハイになるみたいだ。食欲が溢れて、食べるごとにアドレナリンがバンバンでる感覚だった。

《なんて清々しいんだ。圧倒的な勝利をもたらし、ハイになれるし、飯もうまく食べれる。生まれてから最高に気持ちのいい気分だ》
野崎は盗んできて本当によかったと思った。

その後、野崎はありきたりな人間らしく、この力を活かして金を稼ごうと考えた。どうしようかと考えた挙げ句、実力差が出るポーカーの世界大会に出ることにした。

理由は簡単。優勝賞金が10億円だからだ。

そして野崎はその大会でも勝ってしまった。それからと言うもの実力差のでるゲームに手をだしたら、どれも負けしらず。またあらゆる事業に手を出してもすべて成功し、彼は自分自身が、世界中の誰よりも幸せであると、はじめは感じていた。
またメディアにも、ニックネームは『現代のスーパーマン』と呼ばれるまでなった。知名度も手に入れたわけだ。

でも彼は最高に幸せかって?

実はそうでもなかった。そんな野崎でも一つ悩みがあった。
この悩みはだんだんと精神的にも肉体的にも野崎自身を潰そうとしていた。

あまりに思いついて、どうにかならないかと考えたが、盗みを働いた研究所にこの悩みを相談に行くわけにはいかない。なので野崎は笠原を訪ねることにした。

秋葉原に着き、笠原に電話すると丸五というとんかつ屋にいるとのことで向かった。

「最近の活躍ぶり見てるよ。どんなゲームをやらせても世界一。事業をやればどれも成功。もうそろそろ世界の長者番付にも載るんじゃないか。ん、そういやかなり太ったな。それは幸せ太りか?」
笠原は箸で野崎を指して笑った。

「そう金や権力は思う存分手にいれた。しかしこの能力は食べ物を食べたときしか発揮されないんだ。そして免疫もついてしまい、今では大量に食べないと効果がでなくなってしまった。だからいつの間にか暴食するようになってしまい、ほら見てみろよ。今では体重が200kgを超えるまでになってしまった」

「なるほど。なんで食べ物を食べたときだけ発揮するんだろうな。そういや、なにかオーダーしろよ。ここのカツ美味いぞ」
「いや能力発揮のとき以外はダイエットするようにしてるから水だけにしとくよ。それになぜか豚だけは受けつけないんだ」
野崎は水を飲んで落ち着きを取り戻そうとした。

そんな折、店内のテレビでニュースが流れた。
「昨日、日本AI研究所は、豚の脳神経細胞をモデルとした新型の埋込みAIのテストが完了し、来月末に全国販売すると発表しました。このAIは家畜の豚の脳を高揚させて食欲を増やして太らせることにより、よりよい肉を生産するために使われます。近年、豚の質が落ちている生産者の悩みを解決するために作られました。このAIを埋め込まれた豚は自分では食欲を止められず、もしエサを与え続ければ死ぬまで食べ続けるそうです」

野崎と笠原は顔を見合わせ、一瞬言葉を失った。

「どうすればいい?」

笠原は首を横に傾げ、黙ったが少しの間を空けたあと野崎の目を見つめ言った。
「残念だが、一度埋め込んだAIは脳神経にがっちりと接合してるからもう取り除けないよ」

それを聞くと野崎は肩を落としてうなだれ、世界中の誰よりも不幸を感じた。


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この記事を書いた人:岩本ミナイ
プロフィール
外国語大学卒業後、プログラマになる。英語を活かし、社内では数多くの英文システム仕様書の翻訳業務に携わる。今までのTOEIC最高点は960点。現在はフリーランスエンジニアとしてwebシステムの開発をしながら旅をしています。当サイトではみなさまに有益な英語学習と最新テクノロジー情報を発信しています。 » 詳しいプロフィールはこちらを

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