冬〜春でも楽しめるカナダ旅行|トロント、バンフ、ジャスパー、カルガリー、バンクーバー

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旅の始まりは一月下旬。冬の名残と春の息吹がせめぎ合う北米大陸で、私は東部の大都会から西海岸の温暖な街まで、カナダの多様性を一筆書きで味わう旅へ飛び立ちました。雄大な自然と多文化都市が織りなす風景を、列車・飛行機・レンタカー・水上機とあらゆる移動手段で縫い合わせ、一枚の大きなキルトのように心に重ねていく――そんなカナダ旅行の軌跡をご紹介します。

目次

トロント

ハーバーフロント

朝霧がレイクオンタリオの水面を覆う頃、波止場では通勤ランナーの足音とカモメの鳴き声が交錯しています。高層ビル群のガラスが鈍い銀色に濡れ、ヨットのマストがかすかに揺れるたび、街全体が大きな胸をゆっくりと上下させているように感じました。カフェで温かいラテを受け取り、長い防波堤を歩くと、コーヒーの蒸気に混じって湖の冷たい香りが鼻腔をくすぐります。ここは大都市にありながら、広大な水平線が視界を解放してくれる“余白”のような場所でした。

トロントアイランド

ハーバーフロントのフェリーターミナルから小型船に乗り、わずか十五分で別世界へ渡ります。対岸に置き去りにした摩天楼のシルエットを背に、島では桜が淡いピンクのアーチを作り、カヌーが水面を滑っていきました。芝生に寝転ぶと、遠くCNタワーの先端が雲を突き抜け、都市と自然が一枚のキャンバスに収まる絶妙な奥行きを見せてくれます。都会の喧騒が波音と鳥のさえずりに溶け、時間が半音下がったように緩やかでした。

CNタワー

午後、再び本土に戻り、針のようにそびえるCNタワーへ。秒速22 kmのエレベーターが耳鳴りを残して上昇を止めると、ガラス床の下に市街地がジオラマとなって広がります。足元を走る路面電車の赤い屋根が模型のようで、巨大都市が掌に乗る感覚に眩暈を覚えました。展望デッキの外縁を命綱一本で歩く“エッジウォーク”に挑戦すると、風が肌に針のように突き刺さり、レイクオンタリオの青が瞳の奥で呼吸しました。

トロント大学

夕暮れ前、石造ゴシックの校舎が並ぶキャンパスは、黄色い落葉松の絨毯に覆われていました。学生たちが芝生でフリスビーを投げ合い、大時計の鐘が柔らかく鳴り渡ります。図書館のステンドグラス越しに差し込む光が木造の書架に反射し、インクと紙の香りが静かに漂う読書室でしばし旅のメモを整理しました。知の余熱がまだ温かい建築に身を置くと、旅人である自分も一時的にこの街の呼吸に溶け込める気がします。

カサロマ

日が傾き、丘の上に立つスコットランド風の古城へ。重厚な石壁の向こうには、ステンドガラスが昼の名残りを握りしめるように淡く輝きます。地下トンネルを抜け、秘密の階段を登ると、尖塔の窓からトロントスカイラインが夕焼けに燃え、城と都市の時代が交差する瞬間に胸が高鳴りました。庭園では白いマグノリアが香り、石造噴水が夕陽を受けて金のアーチを描き、日常と非日常の境目が心地よく揺らぎます。

ロジャーズ・センターでメジャーリーグ観戦

夜、ドーム球場の屋根が開いて星空が姿を現すと、観客の歓声が一段と高まりました。ブルージェイズのユニフォームを着た子どもがホットドッグをかじり、場内アナウンスが低く響きます。スラッガーが放ったライナーがセンターを切り裂き、観客席が波打つように湧き上がる瞬間、私は見知らぬ隣人とハイタッチを交わし、球場が巨大な家族の居間になる感覚を味わいました。

ネイサンフィリップススクエア

試合後、夜風と共に市庁舎前の広場へ。水面に映るカラフルな“TORONTO”の文字とライトアップされたモダニズム建築が、都市の夜を鮮やかに彩ります。スケートリンクの鏡面が四月の月を歪め、街は静かなエネルギーを保ったまま休息に入る準備をしていました。

ディストラリー地区

翌朝、赤煉瓦の蒸留所跡が並ぶ一角へ足を運ぶと、ローストコーヒーの香りとガラス作家の炉の熱気が混じり合います。石畳に射す光が古い鉄道のレールをきらりと照らし、アートギャラリーの窓にボトルガラスの緑が揺れました。歴史を再利用した街は、過去が静かに発酵する樽のようで、歩くほどに記憶の香りが深くなります。

セントローレンスマーケット

お昼前、巨大なレンガ倉庫の中は早くも人で溢れ、サンドイッチ用のピーミールベーコンがグリドルで弾ける音が響いていました。チーズ職人のスタンドでは十種類のチェダーが整列し、メープル屋の棚から琥珀色の瓶が光を反射します。屋内に満ちるスパイスと燻製の香りを胸いっぱい吸い込み、バタータルトを頬張ると、サクッとした生地の後にとろける甘さが口内を満たし、旅のエネルギーが再補充されました。

ホッケーの殿堂

午後、歴代スタンレーカップのレプリカが鎮座するホールでは、氷上の英雄たちの息遣いが今も残っているかのようでした。バーチャルシュート体験では、氷を切るスケートの音がスピーカーから迫真で響き、スティックを握る手に汗がにじみます。カナダ国民の“第二の宗教”とも言われるホッケー文化の熱量を肌で感じ、スポーツが国のアイデンティティと密接に結びつく様子に圧倒されました。

トロント・イートン・センター

ホッケーの殿堂を後にして地上へ出ると、都会の光がガラス張りのアトリウムへ吸い込まれるように差し込みます。アーチ型の天井を彩る白いスチールフレームが未来的なリズムを刻み、その下でショッピング客の足音が絶えません。吹き抜け中央に吊るされたカナダガンの群れを模したモビールが、わずかな空調の風で羽ばたくたびに、巨大空間の中に柔らかな詩情が生まれました。書店でガイドブックのページをめくりながら、次なる目的地の余白を丁寧に塗りつぶす時間も、旅の大切な一部です。

オンタリオ美術館(AGO)

午後三時、陽光が傾き始めたころ、青みがかったガラスと木製リブが交差する近未来建築が姿を現します。内部に足を踏み入れると、巨大なスパイラル階段が宙を舞うように伸び、木の暖色が自然光をやわらかく反射していました。エミリー・カーの濃密な森の絵や、グループ・オブ・セブンのカラフルなローレンシャン山脈の風景が壁一面を占領し、カナダの大地の息遣いがキャンバスから溢れます。静かな展示室で絵筆のタッチを追っていると、外の喧騒が遠ざかり、時間が額縁の中へ吸い込まれるようでした。

ヤングダンダススクエア

美術館を出ると、街は夕方のゴールデンアワー。高層ビルの谷間にあるこの交差点は、ネオンと巨大スクリーンが錯綜する“トロントのタイムズスクエア”です。ミュージックビデオが無音で発光し、街頭インフルエンサーがスマホを掲げてストリームを配信する様子が、現代都市の脈拍を代弁します。足元の噴水がライトに照らされ、水の粒が宝石のように散ると、街全体がイルミネーションの装置と化し、歩くだけで踊っているような錯覚を覚えました。

スコシアバンク・アリーナでNBA観戦

夜、レイカーズ戦を観にアリーナへ入ると、紫と金のジャージが観客席を染め、スタジアムDJがベースを鳴らして熱気を煽ります。ティップオフの笛と同時に轟く歓声が胸板に跳ね返り、選手のクロスオーバーが赤いコートを切り裂くたびに火花が散るようでした。ハーフタイムにはドレイクの曲が流れ、カナディアンビールとプーティンの列が延びます。スポットライトで真円を描くボールの軌道が、都市の夜を貫くレーザーのように鮮烈でした。

コカ・コーラ・コロシアムでトロント・マーリーズ観戦

翌朝、湖畔近くの小型アリーナに向かい、AHLの試合を観戦。NHLを目指す若手選手たちの試合は、スピードと荒削りな迫力が共存しています。客席が近いぶん氷を削る音がじかに届き、選手の息遣いまで感じ取れる距離感が魅力でした。観客は家族連れが多く、ホットチョコレート片手に未来のスターを見守る温かな空気が漂います。

Walt's Sugar Shack(パンケーキとメープルシロップ)

午後には郊外へ足を伸ばし、白樺林の中に佇むシュガーシャックへ。丸太小屋の扉を開けると、薪ストーブの香りと甘いメープルの蒸気が迎えてくれました。ふかふかのパンケーキに黄金色のシロップをたっぷり注ぐと、表面に薄い飴の膜ができ、ナイフを入れるとカリッと割れます。口に運ぶと、森林の冷気と焚き火の暖かさが同時に広がり、カナダという国の原風景が舌の上で再現されるようでした。

ナイアガラ

トロントから電車とバスで移動

早朝のユニオン駅は通勤客で賑わい、アナウンスの英仏バイリンガルが天井に反響しています。GOトレインの緑色の車両に乗り込み、レイクオンタリオを左に見ながら鉄路を南下。ナイアガラ・フォールズ駅で下車すると、駅前ロータリーに停まる路線バスが滝へ向かう観光客を吸い込んでいきました。緑の街路樹が窓を流れ、遠くから聞こえる低い轟音が徐々に増幅して鼓膜を震わせます。

ナイアガラの滝

展望デッキに立つと、ホースシュー滝が白い水煙を噴き上げ、太陽光が霧を虹色に分解していました。水が落ちる轟音は腹の底に共鳴し、眼下のタービンのように渦巻く青緑の水面が、自然のエネルギーを目視させてくれます。防水ポンチョを着て「ホーンブロワー」の船へ乗り込むと、水飛沫が小さな凍ったダイヤモンドとなって顔に当たり、笑い声と歓声が霧の中で混ざり合いました。滝壺付近では水と空気と光が無境界に溶け、視界全体が水墨画のような白に包まれ、五感がいったんリセットされるような感覚を味わいます。

イエローナイフ

オーロラ観測(四月後半)

トロント経由で北緯62度の小さな町へ降り立った夜、澄んだ空気が鼻腔を刺すと同時に、薄緑のカーテンが天頂に広がりました。湖畔の凍った表面に三脚を立て、長時間露光のシャッターを切ると、肉眼では淡く見えた光が写真の中で鮮烈なグラデーションを描きます。時折ピンクの縁取りが波打つと、周囲の観測者から抑えた歓声が漏れ、極北の静寂に微かな熱が生まれました。氷上に寝転ぶと、頭上を横切る光が地球と宇宙の境目を揺らし、自らの小ささを甘美に感じさせてくれます。

プリンス・オブ・ウェールズ・ノーザン・ヘリテージ・センター

翌日、外気温−5℃の昼下がりにミュージアムを訪れると、カリブーの剥製とデネ族のビーズ刺繍が同居する展示が迎えてくれました。毛皮交易の歴史を辿るパネルや、極夜を生き抜くためのイヌイットの狩猟具が、生活と環境が密接に絡み合う北方文化のリアルを映します。巨大な地質模型の上で係員がオーロラの発生メカニズムを実演し、昨夜の光が科学と神話の両方で語れることを学びました。

ブッシュパイロット・モニュメント

丘の上に立つ金属製プロペラのモニュメントは、極地飛行の開拓者を讃えるもの。木製の階段を登り切ると、凍ったグレートスレーブ湖が銀色に輝き、断続的に航跡を残す小型機が遠くに見えました。突風がダウンジャケットを膨らませ、早春の日差しが真横から差し込むと、影が長い線を描いて足元を流れます。

州立法議事堂

ガラスと木材を組み合わせた円形ドームが特徴的な建物です。中に入ると、議場の天窓から柔らかな光が降り注ぎ、テリトリーの紋章が床面のくるみ材へ温かい色を落とします。ガイドツアーでは、カナダ全土と先住民族代表の二重構造で合意形成を図る政治システムを学びました。極北ならではの合議の音色が、木の壁に低く響くようでした。

ブロックス ビストロ


夕食は湖畔のログハウス風レストランへ。白樺樹液でマリネしたアークティックチャー(北極イワナ)のグリルは、雪解け水のような透明感と脂の甘みが共存します。地元ブルワリーのラガーと合わせると、喉を抜ける冷たさが雪原の空気を連れてくるようでした。窓の外では再びオーロラが薄く揺れ、ディナーの終盤に自然のカーテンコールが用意されていたことに心が震えます。

レンタカーでロードトリップ

カルガリーからバンフへ

雪をかぶったロッキーの峰が遠景に現れた瞬間、心が躍りました。真っ直ぐなトランスカナダハイウェイを西へ走ると、草原の緑が徐々に濃くなり、前方に鋭い稜線がせり上がります。ラジオからはカントリーソング、フロントガラス越しには空と山の境界が曖昧になり、都市と大自然のスイッチが劇的に切り替わる時間でした。

フェアビュー展望台

バンフ国立公園へ入るとまずレイクルイーズ湖畔を歩き、湖面を縁取るトレイルを辿って標高2,255 mのフェアビュー展望台を目指します。山腹の残雪を踏みしめながら進むと、樹間からターコイズブルーの湖面が一瞬の閃光のようにのぞき、胸が高鳴りました。頂上では、周囲の山々が雪化粧したパラペットとなり、氷河が削ったU字谷のスケールが視界いっぱいに広がります。鼓動が耳に響き、風が冷たく頬を裂く感覚が、旅で得られる最も純粋な“生の実感”でした。

レイクルイーズ

下山後、湖畔に立つと水面が夕陽を取り込み、不安定な春の雲が鏡像となって揺れました。カヌーの櫂が水を切る音が遠くでこだまし、フェアモントホテルの石造外壁が柔らかいピンクに染まります。氷河の融水が作る独特の青は、絵の具では再現できない自然のチューニングであり、カメラ越しに見ても現実感が薄れるほどでした。

ジョンストン・キャニオン

翌朝、早起きして渓谷沿いの遊歩道へ。雪解け水が轟音をたてて流れ、石灰岩の壁に沿ってスチール製のキャットウォークが続きます。最下段の滝では水煙が朝陽を微細な虹に変え、凍ったスプレーが草木に儚い霧氷を咲かせていました。さらに奥のインクポットと呼ばれる泉では、エメラルド色の湧水が地底から泡を吹き、森の静寂と水の脈動が重なり合います。

バンフゴンドラ

サルファー山の中腹から山頂まで、空中でチェアが揺れるリズムに合わせ、街並みと山並みが交互に視界へ差し込みます。頂上の展望台では360度のパノラマが待ち受け、眼下にはタウンサイトが模型のよう。遠くレイクミネワンカの湖面が銀色に光り、山の群青と相まって巨大な油絵のように見えました。

Mount Norquay Lookout

午後遅く、車で短いヘアピンを登り、バンフを俯瞰するもう一つのビューポイントへ。山肌に寝転ぶように流れるボウ川と、平らなボウバレーのグリーンが夕陽で黄金に染まります。観光バスとは無縁の静けさの中、冷たい風が松脂の香りを運び、日中の興奮を静かにクールダウンさせました。

Abraham Lake Ice Bubbles Viewpoint

翌日はアイスフィールドパークウェイを北上し、冬季に名高い“アイスバブル”の湖へ。春先でも氷が半分残り、メタンガスが閉じ込められた白い円盤模様が水面下に浮かびます。氷の縁でカメラを構えると、澄んだ氷越しに気泡の層がミクロの宇宙のように広がり、背後の岩山が水鏡となって映りました。

Columbia Icefield Glacier


さらに北上すると、氷河が舌状に迫るコロンビア大氷原に到着。スノーコーチに乗り換え、氷床の上へ出ると足元がガラス板のように滑り、数万年の雪が圧縮された青白い氷が透けて見えます。手ですくった融水は驚くほど冷たく、ミネラルの旨味が舌に残りました。氷河の後退を示す標識が年々麓へ下がっている現実も、旅の感動と同時に胸に刻まれます。

ジャスパー・スカイトラムと雪山登山

ジャスパータウンに近づくと、北半球最長級のスカイトラムが待っています。ゴンドラの窓からは氷河が削った谷とカラマツの森が縞模様になり、山頂駅に着くと目の前に白い稜線が連なりました。そこからさらに30分、踏み跡の浅い雪道をアイゼンで登り、頂上に立つと360度の峰々が雲海の上に浮かぶ群島のよう。呼気が凍り眉毛に結晶がつく寒さでありながら、心はどこまでも澄み切っていました。

Summit Restaurant

極寒の下山後は山頂駅併設のレストランで温かいランチを。バイソン肉のチリスープは濃厚な旨味とスパイスが身体を芯から温め、巨大窓からの眺望がスパイス以上のカタルシスを与えてくれます。雪面を走るシュカシュカというウサギの足音が遠くに聞こえ、自然と人間の距離が一瞬で溶けました。

メディスン湖展望台

ジャスパーから南へ下りながら、夕暮れのメディスン湖へ立ち寄ります。冬枯れのこの時期は湖水が大部分消え、乾いた湖底が灰色の広大な平面となり、雪山が縁取る奇妙な静寂が漂っていました。先住民の言葉で“消える湖”を意味する名が示すとおり、自然が生み出す季節のミステリーに立ち会った気分です。

アサバスカ峠展望台

最終日はパークウェイを南下し、アサバスカ川が蛇行する峠へ。ここはかつて先住民とフランス毛皮商人の交易路であり、歴史と地形が折り重なる場所。テーブル状の山と川霧が絡む姿を眺めていると、人間の営みがいかに地形に導かれてきたかを実感します。峠を越える頃には、フロントガラスの向こうに再び草原が広がり、カルガリーの都市輪郭が地平線に浮かび上がりました。

バンクーバー

蒸気時計

カルガリーから西海岸へ飛び、ガスタウンの石畳を歩くと、シューシューという蒸気の音が霧の中にこだまします。ネオ・ビクトリアンの街灯が雨粒をプリズムに変え、時計塔の真鍮が柔らかく光ります。時報代わりの汽笛が鳴り響くと、通りは一瞬静止し、観光客のカメラシャッターが一斉に落ちました。

ロブソン通り

高級ブティックとラーメン店が混在する賑やかなストリート。夕方には路上ミュージシャンのギターがアスファルトに吸い込まれ、混ざった匂いの中を多国籍の人々が行き交います。ショーウィンドーに映るサイプレス山の残雪が、都市の背景をドラマティックに演出していました。

Canada Place

夜、ダウンタウンの突端に位置する帆船型の施設へ。白い屋根の帆がLEDで七色に染まり、対岸のノースバンクーバーの灯りが水面にゆらゆらと揺れています。岸壁を打つ波のリズムに合わせて胸がゆっくり跳ね、太平洋に開かれた港町のスケールを肌で感じました。

ブリティッシュコロンビア州議会議事堂

翌朝、高速フェリーとバスを乗り継ぎ、ビクトリアへ向かう前に州都建築を見学。19世紀の石造ドームが青空に映え、芝生には桜が舞い落ちます。ツアーガイドの英語に混じって、先住民の伝統歌を奏でる生演奏がロビーに響き、文化の重層が建築の中で交差していました。

Fan Tan Alley

ビクトリアへ移動し、北米最狭の路地へ足を踏み入れると、赤いランタンが昼間でも柔らかな光を落としています。レンガ壁に挟まれた通路を進むと、手書きのチャイニーズハーブの看板や古書店が現れ、時間がゆっくりと巻き戻されるようでした。

Five Guys(ハンバーガー)

ロブソン通りに戻り、肉汁が滴るバーガーを頬張りながら旅のメモを整理しました。ピーナッツの殻が床に落ち、店内BGMのクラシックロックが胃袋とリズムを揃え、次なる水上飛行機のフライトへの期待が膨らみます。

ビクトリア

Harbour Airでバンクーバーから水上飛行機で移動

バラード入り江に浮かぶフロートからプロペラが起動すると、機体はわずかな波を切りながら滑るように加速し、突然ふわりと浮き上がりました。窓の外にはスタンレーパークの緑とライオンズゲートブリッジの鋼鉄グレーがミニチュア化して後退し、ガルフ諸島の島々が翡翠のビーズのように海に散らばります。高度1,500フィートの低空飛行なので、潮の向きを示す白い波筋やサーモン漁船の航跡が鮮明に見え、地図の上をペンでなぞるような航路に胸が高鳴りました。わずか35分のフライトで、都会の喧騒を背に温暖なガーデンシティへ到着する。この身軽さが水上飛行機の魔法です。

Blue Fox Cafeで朝食

水上機ターミナルから歩いて10分、レンガ壁に青いキツネの看板が揺れる人気カフェには、朝9時でも行列ができていました。頼んだのは名物の“Viking Frenzy”。サーモンのグラブラックスとディルクリームチーズ、完熟アボカドをライ麦パンに重ねたオープンサンドです。黄色い半熟卵がとろりと流れ、レモンの酸味が魚の旨味を引き立てます。店内には古いジュークボックスからロカビリーが流れ、万華鏡のようなステンドランプがテーブルを温かく照らし、港町のゆったりした朝が胃袋から染み込んでいきました。

Finest At Sea Seafood Market and Food Truck(フィッシュ&チップス)

昼前にはインナーハーバー沿いの停泊所へ移動し、紺色のフードトラックで揚げたてのハリバット&チップスを注文しました。衣はサクサクというよりカリッと硬派で、噛むとすぐに白身がほろりとほぐれ、潮の匂いがふわりと鼻孔を抜けます。サイドのピクルスが口中をリセットし、再びレモンを絞れば旨味の余韻が更新される飽きのこない循環が皿の上で完結します。ベンチに腰掛け、対岸の州議事堂ドームを仰ぎながら頬張ると、衣のパリパリ音と桟橋を叩く波音がシンコペーションを奏で、海風さえもスパイスの一部に思えました。

ビーコンヒル公園(孔雀を目撃)

午後は花々が咲き乱れる公園へ。桜とマグノリアが淡いパステルの天蓋を作り、その下でエメラルドグリーンの芝生が広がっています。池を渡る丸木橋で足を止めると、突然ガァーという低い鳴き声が後ろから響き、振り向けば孔雀が鮮やかな尾を扇状に広げていました。蒼い瞳のような羽紋が陽光を受けてキラリと光り、観光客のカメラが一斉にシャッターを切ります。羽を揺らす微かな音はサテンを擦るように柔らかく、人工湖に浮かぶ白鳥の優雅さと絶妙な対比をなしていました。公園の風景が一瞬でエキゾチックな舞台へ変わる魔法に、時を忘れて見入ってしまいます。

カナダ旅行まとめ

東部の多文化都市トロントから、巨大な水のエネルギーが炸裂するナイアガラ、極北イエローナイフのオーロラ、ロッキーを駆けるロードトリップ、太平洋沿岸のバンクーバー、そしてガーデンシティ・ビクトリアへ。約8,000kmを移動した3ヶ月は、カナダという国のスケールと多様性を体で受け止める旅でした。

地平線を突き刺すCNタワーと、夜空を染める緑のカーテン。氷河の上で飲んだ融水の冷たさと、シュガーシャックのメープルシロップのやわらかな甘さ。NBAアリーナの轟音と、ビーコンヒル公園で孔雀が羽ばたく静謐、一見バラバラなシーンが頭の中でモザイクになり、やがて一枚の巨大なタペストリーを織り上げました。

旅が終わり、機内の窓に映った自分の顔越しに雲海を眺めながら思います。カナダの魅力は“余白”の美学にあると。雄大な自然が人の営みを包み込み、都市の喧騒が一歩外れれば静けさに変わる。広い国土が許すゆとりが、人々の寛容さや多文化共生の土壌を育てているのかもしれません。

ページを閉じても耳にはまだホーンブロワーの水飛沫、目にはロッキーの群青、舌にはメープルの残り香が残ります。次にこの国を訪れるとき、どの“余白”が私を待っているのか、その想像だけで、また旅のエンジンが静かに回転を始めるのを感じています。

この記事の著者:ETweb編集部
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