【北千住ショートショート】借りモノ

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「なぁ、あんたこいつの使い方、知ってるかい?」
北千住の立ち飲み屋で、隣りにいた青年に60代の初老の男が話しかけた。

「Androidですか。私iPhoneなんでちょっとわかんないです」
「そうかい。携帯なくしたから、ちょっと連れから拝借したんだが、イマイチ使い方がわからんのよ」
男は年相応ではないミニーマウスのケースに入ったスマホカメラで、連れの女とツーショットで撮ろうとしたがスマホの使い方がわからなかった。

「もうあきらめなよ。それより時間もないしもっとまったり話そ」
そう言うと女はスマホを握った男の手を握り、男のコートのポケットにスマホごとむりやり押し込めた。
「そうだな、せっかくの時間ももったいねえし」

「兄ちゃんすまんかったな」
「いえ」
「そういやさ、俺らどういう関係に見える? 兄ちゃんから見て」
「ん〜親子ですかね?」
その女は見た目が少し派手だけど、どう見ても20代中頃くらいなので、キャバ嬢と客の関係かと青年は思ったが、さすがにそれは言えなかった。

男は不敵な笑みを浮かべた。
「ははは、ちがうんだな! 実はな、おいらたち夫婦なんだわ」
「え、そうなんですか」
男は女の肩を組み、仲の良さをアピールするかのように青年に見せつけた。

よっぽど若い奥さんをもらって自慢したいんだなと青年は思ったが、女が顔を少しそらしたかのようにも見えた。
青年は、周りに年の差がバレるのが恥ずかしかったので女が顔をそらしたんだと思った。

その後、青年は男といくたびか会話を重ねたが、30分ほど経ったところで店内の壁時計が目に入った。
「おっと、そろそろ行かないと」
「そうかい、んじゃまたな」

青年は会計をし、男と女に軽く会釈をして店を出て、西口の丸井前で高校時代の同級生と待ち合わせした。

「待たせたな」
駅につくと同級生はもうすでにいた。
「大丈夫。俺も今来たところだ」

同級生が地元から東京の北千住に引っ越してきたので、今日久しく北千住で会うことになった。

二人は近くの居酒屋に入り、近況を語り合ったあと、青年がさきほど出会ったカップルについて話した。
「そういやさ、さっきすごい年の差カップルに出会ったぜ。下手したら40くらい離れてるんじゃないかな。それにさ、ウケるんだけど、そのおじさんが持っていたのがミニーマウスがウインクしてるスマホケースでさ、全然年に合ってなくておかしすぎたよ」
「いろいろツッコミどころ満載だな」
二人は酒が回り、饒舌になって少し声量が 大きかったのかもしれない。

「すいません、ちょっとその話、詳しく聞きたいんですが」
隣の席に座っていたスーツ姿の男性が声をかけてきた。
「はい? なんのことですか?」
その男性はスーツ姿でもわかる体格のよさだったので青年は少したじろぎ答えた。
「そのミニーマウスのおじさんの話です。すごくおもしろかったのでもう少し聞きたいなと。そんな人もいるんですね。あ、もしよければ酒一杯おごりますよ」
男性は店員を呼び、有無を言わさず青年たちに酒を頼むように促した。

その後、男の特徴やら他に語りあった内容をくまなく話した。
一言話すたびに、なるほどなるほどと男性は相槌をうち机をパンパンと叩き、大笑いした。
その好反応に青年はさらに饒舌になり、男の特徴やらをペラペラと話した。

「そういや、そのミニーマウスのケースはおじさんの趣味ではないと言っていました。おそらく娘さんからのプレゼントじゃないんですかね」
「へえ、そうなんだね。でも、おそらく娘の物ではないんじゃないかな…おっと。そろそろ終電があるし私はもう帰るよ。ありがとうね」
そう言うと男は会計をし、そそくさと立ち去ってしまった。

その後、青年たちも駅に向かったが、青年の終電はもうなかった。
「しまった」
「んなら、うちで泊まるか?」
「ありがとう。でもお前、明日早いんだろ。俺、今日、寝不足で久々にゆっくり寝たいし、そのへんのネカフェに泊まるよ」

そう言って青年は同級生と別れ、ネカフェを探しだしたが、その道すがらに翔竜というラーメン屋の前を通ったとき腹が鳴った。
「そういや、酒だけ飲んでなにも食ってないな。一杯いただくか」

ラーメン屋の戸を開けた青年はびっくりした。目の前にはあのおじさんカップルがカウンターに腰掛けていたのだ。

「おお、さっきの兄ちゃんじゃないか。こっち座りなよ」
さっき見知らぬ男性に笑い話としてペラペラ話した気まずさから尻込みしたが、違う席に座った方がより気まずいと思ったので、促されるままに男の隣席に座った。

「あれから飲んでたのかい? 顔が赤いぜ。まぁここのラーメンうまいから味わっていきな」
青年は一抹の気まずさを感じたが、どうせ聞かれてないだろうと開き直って平然を装うことにした。

ガシャー!!
その瞬間、戸を勢いよく開く音が聞こえた。

青年と男が振り返ると、さきほど居酒屋で話したスーツ姿の男性が立っていた。

「やっと姿を現したな! 借りモノのタツ! いや小澤辰夫! もう堪忍しろ」
そういうと男性はずかずかと店に入ってきて、男の手首に勢いよく手錠をかけた。
青年は急転直下の出来事に口を開けたまま動けなかった。

「ちょっと待ってください。これはどういうことですか?」
女は言った。

「あんた、知らないのか?」
「どういうことですか?」
「この男、足立区付近で有名な窃盗犯なんだよ」
そう言うと青年はその男性がだれなのか理解できた。私服警官だ。
警官はそのまま男を外に止まってる警察車両まで連れて行った。

「奥さん大丈夫ですか?」
青年はとっさに声をかけたが、女は押し黙ったまま外を見つめいる。

その後、警官が店内に戻ってきて事情を話した。
「奥さん、小澤は足立区内だけで数百の盗みを繰り返してた窃盗犯なんです。スリから万引き、置き引きまで盗みに関することはなんでもやっていたんです。ただなぜか盗んだ物は数日後、パトロール中でだれもいない交番の机の上に置いていくんです。なので最終的には盗んだ物は所有者の元に帰るもんだから、捜査官の間じゃ”借り物のタツ”って呼ばれてたんです。あのミニーマウスのスマホも女子高校生からスリをやって盗んだ物なんです」

それを聞くと女は地面に顔を下げ、黙った。

「一応もう一度聞きますが、奥さんはそのこと本当に知らなかったんですか?」
数秒ほど経ったあと女は口を開いた。

「すいません、実は私、レンタル妻サービスから派遣された者なんです」
「レンタル妻?」
「はい、前に流行ったレンタル彼女の妻版のサービスです。あの人、常連客でして...」

なんと男は物だけはなく奥さんも借りモノだった。

この記事を書いた人:岩本ミナイ
プロフィール
外国語大学卒業後、プログラマになる。英語を活かし、社内では数多くの英文システム仕様書の翻訳業務に携わる。今までのTOEIC最高点は960点。現在はフリーランスエンジニアとしてwebシステムの開発をしながら旅をしています。当サイトではみなさまに有益な英語学習と最新テクノロジー情報を発信しています。 » 詳しいプロフィールはこちらを

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